僕の楽器創り 松岡つとむ
念願だった楽器作りを始めた。擦弦楽器が好きな僕は、まずはチェロ(のようなもの)を作ってみることにした。どんな形に作ろうか。既存の形じゃつまらない。かといって形ばかりおもしろくても奏きにくければ意味がない。あれこれ考えた末、洋なしの形を思いついた。設計図を広げた新聞紙の上に描いて、材料を考える。材料はなるべく北海道のものを使いたい。そう思って調べているうちに、ボデーにはイタヤカエデの木が良いと言うことが判った。イタヤの木はわが家のまわりにもたくさん生えていて近所の方からももらえたが原木では使えない。製材して乾くのを待っていたらいつになるかわからない。途方にくれていたら木工家の友人が手頃な材料を分けてくれた。
イタヤの板は今まで扱ったどんな木よりも堅かった。ボディの丸みを出すため表面を削る。テーブルの上に、板を足で踏んづけて、ノミとハンマーでトンカントンカン。始めにふくらんだボデーの凸の表の形を出し、次に裏を刳り抜いた。削りすぎないようにと気持ちでは思うのだが、手の方は大胆に動いてしまう。この段階で穴を空けてしまい、貴重なイタヤ材を3枚もダメにしてしまった。僕にはこんな繊細な作業は向いてないのかもしれない。
両面から削り出された板の厚さは5mmほど。表裏をこんなに削られてもイタヤの板はしっかりとしていた。響く(良く鳴る)ためには薄い方が良いと聴いていた。この厚さで弦を張る力を支えなくてはならなかった。バスバー(表板の内側に張る背骨のような木)を付けただけで弦の張力を支える構造を造らなければならないのだ。また一方、この洋なしの形でチェロに負けないくらいの体積の箱を作るために、箱の厚み(横板の巾)を大きくとることにした。厚さ1.6mm巾120mmの横板を裏板のカーブに合わせて立てた。ヨコ板のイタヤは水に浸して、アイロンで熱を加えるときれいに曲がった。
ネックは緩くカーブした自然木を使った。鹿の角のような小枝を糸巻きにしてネックに差し込んだら民族楽器のような素朴な雰囲気になった。次に駒を作った。ネックとボディと駒の関係はとても微妙だ。、駒の位置と高さネックの角度がなかなか決まらない。何度も作り直した。結局6本目に作ったネックを使った。
ニスを塗り弦を張ってなんとか形になった。弓はイタヤの小枝に、馬のしっぽを束ねて作った。
イタヤはねばりがあって、よくしなり、縦にも横にも強い木だった。最初は扱いにくかったが慣れるに従ってすっかり気に入ってしまった。
かくして、世界に一つしかない楽器「ラ・フランス」ができあがった。その音色はいかに・・・?
これが本人も驚くほど思いがけずきれいで大きな音が出たのだ。それにしても弾きにくい。
翌日は友人達と、展覧会だった。会場で僕は「ラ・フランス」を引いた。その他には、雫の形をした肩掛けバイオリン(カミシホローネ)、琵琶のような音色の円形の楽器(月琴)オルゴールハープなど数点の楽器を作った。まだまだ試行錯誤で失敗だらけだが、楽器作りはおもしろい。
僕はこれからも、形や構造も含めた手作りの楽器を創っていこうと思っている。400年前にストラディバリウスが出現する前には、きっといろんな擦弦楽器が存在していたと思われる。僕はそこから楽器のルーツをさかのぼる旅をしてみたい。
なまら蝦夷6号から 2007年4月1日